「暮らしのヒント」作成のための基礎調査(アンケート編)ご報告

多発性嚢胞腎患者さんのための
「暮らしのヒント」作成のための基礎調査(アンケート編)ご報告

この調査は, PKDの会(当時),PKDFCJのご支援のもと,平成28年10月~12月に実施いたしました.ご協力いただいた皆様に深く感謝申し上げます.

調査の概要
実施期間:平成28年10月~12月
対象者:ADPKD患者
調査の方法:Webアンケート(患者会サイトからリンク)および自記式質問紙(患者会会報とともに送付,患者会主催講演会で配布)

調査結果
回答いただいた方の特徴
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平均年齢は55.4歳で,診断からの経過期間は平均18.2年でした.
女性が174名(62.1%)と,比較的多くの方にご協力いただきました.
回答者の約半数は首都圏に在住の方でした(東京・神奈川・千葉・埼玉で136名)
およそ半数の128名(45.7%)の方が,患者会の会員でした.

■ご病気について

診断のきっかけ

およそ半分の方は自覚症状が出現する前に,検診や家族歴をきっかけに,診断されていました.

診断のきっかけ

治療をうけた経験

およそ3人に2人が内服治療,3人に1人が人工透析を受けていました.腎臓移植の経験者は5人でした.

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合併症の経験

最も多くの方がお持ちだった合併症は高血圧でした.半分以上の方が肝嚢胞をお持ちで,脳動脈瘤は56名(20%)の方に見られました.

合併症の経験

直近1か月の症状

症状のうち最も多かったのは腹部の圧迫感で,およそ半分の方に見られました.それに伴って,食事量が減っている方もいらっしゃいました.

直近1か月の症状

受診間隔

最多は月1回でしたが,中には受診していない方もいらっしゃいました.

受診間隔

家族歴

親に家族歴があると回答された方は約7割にとどまり,家族歴が把握されていない可能性が考えられました.

家族歴<

生活の質について

本調査では,ご回答いただいた皆様の「生活の質」を,「全般的な生活の質」と,「腎疾患に関連する生活の質」の大きく二つにわけておたずねしました.この調査の目的の一つとして,新しい治療薬トルバプタン(サムスカ®)が生活の質とどのように関連するかを調べることがあります.そのため,全体を,トルバプタンを内服しているか/していないか,透析をしているか,でわけて結果をお示しします.

全般的な生活の質
全般的な生活の質

 全般的な生活の質は,日本国民の標準的な生活の質を50点として,8つの領域に分けて評価しています.点数が高くなるほど生活の質が高いことを示します.例えば,「日常役割機能(身体)/(精神)」は,普段の生活の中で身体的,または精神的な理由で,仕事や普段の活動に問題があった場合には低い点数になります.本調査にお答えいただいた方の全般的な生活の質は,国民標準値よりやや低い傾向にありました.全体的健康観については特に低く,ADPKD患者さんたちはご自身の健康状態を悪い/悪くなっている,と捉えていることを意味します.

 透析をしていない195名中,トルバプタンを内服しているのは90名でした.トルバプタンを内服している/していないで,全般的な生活の質には差がないことがわかりました.身体機能や,日常役割機能といった,実際に体を動かすことに関する項目では,透析を受けていらっしゃる患者さんでは低い点数になる傾向にありました.しかし,全体的健康観,活力,心の健康のような全体的な項目ではどの治療法でも差はありませんでした.

腎疾患に関連する生活の質
腎疾患に関連する生活の質

 腎疾患に関連する生活の質は,100点満点で測定しており,得点が高いほどそれぞれの領域の生活の質が高いことや,腎疾患がその機能に与える悪影響が小さいことを意味します.「腎疾患による負担*」「睡眠」における生活の質は,その他の領域より低い傾向にありました.特に,症状として「腹部の圧迫感・痛み」がある方では,睡眠の質が強く妨げられる傾向にありました.

 「睡眠」では,トルバプタンを内服しているほうが生活の質が低いことが明らかになりました.トルバプタン内服によるトイレ回数(特に夜間尿)の増加が影響しているものと考えられます.その他の領域では,トルバプタンの内服の有無で生活の質はほとんど変わりませんでした.トルバプタンを内服されている方の睡眠の質の低下についてなんらかのよい手立てができるよう今後研究を続けていく必要があります.

 その他,腎疾患に関連する生活の質は,合併症(特に嚢胞出血,嚢胞感染)がある場合には低くなることが示されています.これは当たり前のように思えますが,症状を早期に発見して,何らかの対処をすることが生活の質向上に結び付くともいえ,積極的な合併症管理が求められます.また,透析を受けていらっしゃる患者さんは,腎疾患によって負担を感じており,日常生活や勤労状況への影響が大きく,さらなるサポートの充実が求められます.

*腎臓病のために時間を取られたり,いらいらしたり,自分が家族の負担になっている用にかんじたりするかどうか

現在の治療への全体的な満足度

 すべての方に,現在の治療に満足しているかどうかを,「とても満足している」から「まったく満足していない」までの5段階でたずねました.その結果,「満足している」と答えたのは半数未満にとどまっていました.このような現状について,患者さんの声にしっかり耳を傾けながら,治療やそれに関連した患者さんへのサポートを考えていく必要があります.

現在の治療への全体的な満足度

病気に関する情報の共有について

 この調査のもう一つの大きな目的として,病気のことについて家族(パートナー,子ども)や他者(職場の人,友人)に伝えるということを皆様がどのようにお考えになり,実行されているかを明らかにすることがあります.以下にそれらについてお答えいただいた結果をお示します.

親から病気のことについて伝えられた経験

 ご両親のどちらかが多発性嚢胞腎である191名(68.2%)の方におたずねしました.
伝えられた経験があると回答された方が半数以下の82名でした.その理由として,皆様の親の世代では,病気について家族で話すことが少なかったことや,そもそも多発性嚢胞腎が遺伝性の病気であることを知らされていなかった可能性が考えられます.

 伝えられた時の気持ちとして,「ショックを受けた」「将来に悲観した」といったお気持ちの他,「遺伝なのでしょうがないのだから,付き合っていくことを考えた」「今すぐどうになるというものでもないので気にしなかった」といったような前向きから中立な姿勢を持たれた方もいらっしゃいました.子どものころに伝えられた方は「よくわからなかった」「一つの体の特徴ぐらいにしか思わなかった」「親の体のことが心配になった」のように,大人になってから知らされるのとは違った受け止めをしていらっしゃるようでした.

親から病気のことについて伝えられた経験

パートナーに病気のことについて伝えた経験

 パートナー(配偶者等)がいると答えた215名(76.8%)の方におたずねしました.
およそ9割の方が伝えていらっしゃいました.伝える際には,主に病気の遺伝性のことや,病気の症状についてお話しになっているようでした.

 伝えた結果,パートナーがそれを「理解している」と感じている方は7割ほどで,あとの3割は「理解していない」または「わからない」と感じていました.しかし,伝えたことについては8割以上の人が「よかった」と考えており,伝えないほうがよかったと思っている人はいませんでした.残りの2割弱の方々は「どちらともいえない」と答えており,病気のことについて話したことについての迷いをお持ちなのかもしれません.

パートナーに病気のことについて伝えた経験

子どもに病気のことについて伝えた経験

 子どもがいると答えた195名(%)の方におたずねしました.
子どもに病気のことについて伝えた経験
およそ8割の方が伝えていらっしゃり,パートナーよりは少ない結果でしたが,「伝えていない」と答えた理由として最も多かったのは「まだ子どもが小さい」ことで,ゆくゆくはお話になるようでした.しかし,「子供に不安を与えたくない」「病気によって人生を制限させたくない」といたような思いも,伝えない理由として挙がりました.

 伝えた結果,子どもがそれを「理解している」と感じている方は半分ほどで,3割の方が「わからない」と感じていました.お話したことについて理解していることかどうかを確かめる機会がまだ少ないのかもしれません.伝えたことについては「よかった」と考えている人は約7割と,パートナーに伝えることについて同じ質問をした場合と比較すると少ない結果でした.


子どもに病気のことについて伝えるうえで重要なこと

 それでは,患者の皆さんが子どもに病気のことについて話す/話さないを決めるうえでは,どのようなことが重要と考えているのでしょうか.全ての患者さんに尋ねました.もっとも重要視されていたのは,「子どもの年齢」でしたが,子どもに関連するその他の項目も半分以上の人が重要と答えていました.子どもに話すときには,年齢だけでなく,性格や,将来への影響等,様々なことを考えることが大切です.

子どもに病気のことについて伝えるうえで重要なこと

子どもに親が多発性嚢胞腎であると伝えることの「良いこと」「悪いこと」

 調査にご協力いただいた全ての方に自由記載でお答えいただきました.それらの項目を,内容ごとに分類すると,おおよそ以下のように分類されました.

良いこと

  • 親がモデルケースとなれる
  • 子どもからのサポートを得られる
  • 子どもと一緒に病気に向き合うことができる
  • 子どもが自分の健康に目を向けるようになる
  • 早期発見・治療・予防につながる
  • 子どもの人生設計に役に立つ
  • 病気と向き合うきっかけになる
  • 子どもの人間的成長につながる
  • 知ることによって心理的負担が軽減される
  • 伝えることは自然なこと

悪いこと

  • 親の精神的・身体的負担が増える
  • 子どもの精神的負担が大きくなる
  • 消極的になり自分の可能性を狭めてしまう
  • 病気による差別が起こる可能性
  • 否定的な考え方になる
  • 将来に対する希望が持てなくなり悲観する
  • タイミングによっては不安を与えるだけ
  • ライフイベントの選択に影響を及ぼす

職場の人や友人に多発性嚢胞腎であると伝えることの「良いこと」「悪いこと」

 調査にご協力いただいた全ての方に自由記載でお答えいただきました.それらの項目を,内容ごとに分類すると,おおよそ以下のように分類されました.

良いこと

  • 仕事面で配慮してもらえる(業務内容,業務量,早退欠勤・受診の理解,食事会等への不参加の理解)
  • 悩みを聞いてもらえる
  • 周りの人が気遣ってくれる
  • トルバプタンの副作用について理解してもらえる(トイレが近いこと,水分補給)
  • 食事や日常生活の制限を理解してもらえる
  • ADPKDという病気の認知が広まる

悪いこと

  • 昇進等に影響する/仕事の幅が狭くなる
  • 過度の心配をかけてしまう
  • 遺伝病のため,子も病気と決めつけられる
  • 一般的な病気でないので理解してもらえない
  • 興味本位でいろいろ聞かれる
  • 仕事ができないと病気のせいにされる
  • 付き合いに誘われなくなる
  • 悪いことが起こるかどうかは職場にいる人たちによる

サポートの認知度について

 この調査では,多発性嚢胞腎患者さんへサポート資源について,どれぐらいご存じか,そして利用しているかも併せてお尋ねしました.

サポートの認知度について

 平成26年の難病法の改正によって,多発性嚢胞腎が新たに指定難病*に設定され,難病支援・相談センターの活用が期待されますが,その内容を知っていたのは3割未満にとどまりました.多発性嚢胞腎患者さんが利用可能な社会資源に関する情報を容易に得られるようにする必要があります.

*症状,進行度に応じて指定



サポートの認知度について

 本調査では,多発性嚢胞腎患者さんたちが様々な遺伝に関する思いや悩みを抱いていることがわかりました.遺伝カウンセリングでは,病気の遺伝に関することによって,患者さんやご家族の体やこころ,日々の生活にどのような影響があるかを知り,その影響にどう対応していけばよいかを専門家と一緒に考えます.遺伝カウンセリングを受けられる部門は,大学病院・総合病院を中心に全国に設置されていますが,実際に受けたことがあるのはわずか3人(1%)で,半分以上の人は言葉も知りませんでした.遺伝に関するサポート体制を周知する必要があります.



まとめ

 全国280名の多発性嚢胞腎患者さんから,生活の質について,病気について他者に伝えることについてご回答いただきました.その結果,多発性嚢胞腎患者さんの生活の質は国民標準値よりもやや低く,特に合併症の予防や症状緩和について効果的な方法を開発する必要性があると考えられました.なかでも,腹部の症状や薬の副作用によって,睡眠の質が低い方が多く,いかにして多発性嚢胞腎患者さんの睡眠の質を向上するかが,重要なテーマとなりそうです.

 本調査は,病気のことを他者に伝えることについて患者さんに伺うことができた,大変貴重な調査と言えます.その結果,大部分の方がパートナーや子どもに病気のことを伝えており,そして伝えたことをポジティブにとらえていました.もともと他者に伝えることについてポジティブにお考えの方が,本調査に協力してくださったことも考えられるものの,これまでは,病気のことを他者に伝えることについては,そのデメリットに着目されがちであったところ,さまざまなメリットを感じていらっしゃることもわかったことは,本調査の大きな成果の一つといえます.しかし,遺伝のことに関する不安や何らかの悩みは依然として多くの方がお持ちでした.そのような方をサポートするために遺伝カウンセリングがありますが,その認知はとても低いという現状がわかりました.患者さんにとって役に立つ情報が,容易に患者さんのもとに届くようなシステムを作るよう努めてまいります.

 本調査にご協力いただいた皆様,まことにありがとうございました.


本調査は,日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(C)課題番号:16K12034 「遺伝性疾患をめぐる病い経験の実態と新たな課題への対応方法に関する検討」(H28~30年度 研究代表者:西村 ユミ)の一部として実施されました.