多発性嚢胞腎とは
2.(2) 嚢胞腎の種類

嚢胞腎が原因で起こる腎臓の病気を嚢胞性腎疾患という。
嚢胞性腎疾患には主なものとしてつぎの3つがあげられる。
第1は単純性腎嚢胞、第2は多嚢胞化萎縮腎、第3は常染色体優性遺伝をとり、
非常によくみられる多発性嚢胞腎である。
なお多発性嚢胞腎には非常にまれに常染色体劣性遺伝をとるものもあるが、ここでは触れない。

単純性腎嚢胞は、単なる加齢現象の表われで、健康な人でも歳を重ねるとできる嚢胞である。
しかし、この嚢胞はほとんど悪いことはしない。
CTスキャン、あるいは超音波検査で調べると50歳代で大体20%、60、70歳代になると、 50%ぐらいの人にみられるようになる。またなぜか男性に多くみられる。
単純性腎嚢胞は病気というほどのものではないが、しばしば多発性嚢胞腎とまちがわれ 心配されることがある。
単純性腎嚢胞では嚢胞が1個とか2〜3個できているのが普通である。

多嚢胞化萎縮腎は、血液透析を受けている透析患者の半分ぐらいにみられる。


(図4左)


普通、正常な腎臓は長径が大体12cmぐらいであるが、慢性糸球体腎炎で透析に入ると、 腎臓はさらに萎縮して小さくなる。最初、嚢胞はほとんどないが、透析を長く続けていると、 腎臓に後天性の嚢胞ができてくる。これが多嚢胞化萎縮腎である。
この場合、腎腫瘍の合併が問題になる。


      嚢胞性腎疾患の分類

       T 単純性腎嚢胞

       U 多嚢胞化萎縮腎

       V 多発性嚢胞腎
          常染色体優性遺伝(ADPKD:成人型)
          常染色体劣性遺伝(ARPKD:幼児型)

       W 腎髄質嚢胞 
          腎ネフロン −髄質嚢胞腎複合体(尿毒症髄質嚢胞腎)
          髄質海綿腎

       X 異形成に伴う嚢胞(先天性多嚢腎)

       Y 遺伝性疾患に伴う腎嚢胞
          結節性硬化症、von Hippel-Lindau病

       Z その他の腎嚢胞
          分節状、片側嚢胞腎(多房性嚢胞腎)


多発性嚢胞腎(Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease: ADPKD)は、
人種、性別、地域に関係なく頻度が600人から1000人に1人ぐらいで遺伝すると
云われている病気である。
腎臓は非常に大きくなり、約半数の人で腎臓の働きが悪くなる。
普通正常な腎臓はせいぜい一個が150gぐらいのものであるが、
ところが多発性嚢胞腎ではその10倍、20倍、30倍の大きさにもなる。


(図4右)


多発性嚢胞腎では尿細管の管が壁が膨らんで嚢胞が無数できると、
そこに出血をみたり、その壁が少し破れて血尿になったり、痛みが出たり、
結石ができやすくなったり、細菌がつきやすくなったりということが起こる。

それではどうして尿細管が膨れてくるのだろうか。
正常の尿細管には、内腔に尿が流れる空間があり、その周りを尿細管細胞が取り巻いている。
普通は糸球体で濾過された塩分・水分の大部分が、この尿細管細胞で再吸収されて体に戻る。
一方、嚢胞ができる過程を見てみると、上では細胞が4個あるが、下では8個に増えている。


(図5)


そのため尿細管の細胞が増えること。
次いで塩分や水分が再吸収されず逆に内腔に塩分や水分がたまってくること。
さらに、尿細管の周りの組織は非常に柔軟性に富んでいて、どんどん膨らむこと。
これら3つの変化が起こって、嚢胞ができると考えられている。
そのためどれかをうまく抑えることができれば、嚢胞のでき方が少なくなるかもしれない。
また嚢胞ができても、正常に働くネフロンの数が十分にあれば、腎臓の働きは落ちないはずである。
しかし嚢胞がたくさん出来てしまうと、周りの間質に線維化が起こり、 100万個ある正常なネフロンもだんだん数が減少して腎臓の働きがなくなってくる。
もう1つは、嚢胞が非常に大きくなると、尿細管の間を走っている血管が外の方に押しやられ、 引き伸ばされて腎臓に虚血という状態が起こる。
それがまた血圧の上昇、高血圧と関係してくる。

多発性嚢胞腎は常染色体優性遺伝をとる。
常染色体優性遺伝子というのは、片方の親が多発性嚢胞腎あると、 子どもは50%の確率でこの病気になる。
50%というのはある家系を見ると、4人中3人が多発性嚢胞腎の遺伝子をもち、
別の家系の場合は3人のうち1人が遺伝しているという具合である。
遺伝子の変化は染色体の16番目 (PKD1遺伝子)あるいは4番目(PKD2遺伝子)にみられ、 85%の家系では16番目に異常がある。
そのためにPKD1遺伝子や、一部の家系ではPKD2遺伝子に異常が起こる。
PKD1遺伝子、PKD2遺伝子が正常ならば、成熟した完全な尿細管ができるが、 これらがうまく働かないと、成熟した形にはなれない。
この結果、少し分化度の低い尿細管になり、細胞が増えすぎるとか、液が内腔に分泌されるとか、 あるいは尿細管の周囲の組織がルーズになったりするといわれている。

ここで遺伝子診断について、ある家族を例に説明しよう。
ある患者には子供が4人(女3人、男1人)おり、この4人のうち娘2人は
多発性嚢胞腎だとわかっている。
しかし残りの子供達は遺伝しているかどうかまだわかっていない。
そして多発性嚢胞腎の娘さんと健康な人との間には、子供が3人おり、
この3人に多発性嚢胞腎が遺伝しているかどうか、わからないとする。
この場合、現在の遺伝子診断では連鎖解析という方法を使う。
まず患者とはっきりわかっている人に、遺伝子のどういう変化があるかを見る。
患者の白血球のDNAを制限酵素で切断して調べると、患者には共通の変化(バンド)がみられ、 これを持っている人が遺伝していることになる。
その結果、運の悪いことに3番目の娘と健康な人と結婚した娘の10歳以下の子供の 一人にバンドが認められ、遺伝していることが分かった。
このように今日では遺伝子診断もできるようになったが、特殊な場合、
例えば兄弟の間で移植をするときに、提供者が遺伝していないかどうかを 調べるという様な場合を除き、日常臨床ではまだ行われていない。

普通は画像診断といい、超音波検査ないしCTスキャンで調べる。
CTスキャンで検査すると、わりあい早い時期から嚢胞があるかどうかが分かる。
そして病気がかなり進むと、腎臓にたくさん嚢胞ができて、 腎臓が大きくなりお腹が張って自覚することもある。


(図6)


通常、医者は初期の状態で超音波検査やCTスキャンを使い、
嚢胞が何個見えるか、遺伝があるかなどによって、多発性嚢胞腎の診断を行っている。

とくに家族に多発性嚢胞腎の患者がいて、超音波・CTの検査で両方の腎臓に
それぞれ3個以上の嚢胞があれば嚢胞腎と診断する。
しかし、家族内や家系をいくら調べても、多発性嚢胞腎の人がない場合も2〜3割ある。
この場合、可能性としては1つに家族歴が正確に把握できていないこと、もう1つは突然、 その人から多発性嚢胞腎が始まったことが考えられる。
なお、この場合は、一つの腎臓に18歳未満では3個以上、18歳以上では5個以上嚢胞が 確認されれば多発性嚢胞腎と診断する。
ただし、これ以外にも嚢胞のできる病気はたくさんあるので、こういうものはもちろん除外 してから多発性嚢胞腎と診断することになっている。

また一般に嚢胞は子どものときに存在しなくても成長するにしたがってできてくる。
そのため、早い時期に検査しても嚢胞が見つからないのは当然で、
見つからないからといって、遺伝していないというわけではない。
20歳代だと遺伝していても14%ぐらいの人には、その時点でまだ嚢胞は全く認められず、 30歳代になると、ほとんどの場合に嚢胞ができて診断が可能となる。
そこで30歳代で超音波検査をしても嚢胞がなければ、遺伝していないと考えてもいい、としている。


(図7)


それでは日本には多発性嚢胞腎の人がどれくらいいるのだろうか。
正確なデータはないが、2〜5万人と推定されている。
そしてこれらのうち腎臓の働きが悪くなって、透析に入るのは約半分、 年間大体700人ぐらいである。
また現在、透析患者は23万人ほどいるが、その中でこの病気が原因の人は約7000(6766:2001年末)人と、 透析導入となる原因疾患の中で4番目に多い。
透析を受けている多発性嚢胞腎の患者数を人口100万あたりで比べてみると 50人以上の県はなぜか日本海側に多く、また透析を受ける原因となった病気のうち、 多発性嚢胞腎が占める率も3.8%以上は、なぜか日本海側に多くみられる。