誰か(家族/子ども/職場/友人)に病気について話すこと

ADPKDという病気について、誰に、何を、どの程度まで話すのかは、患者さん方にとっていろいろな意味で悩ましいことです。ここでは、インタビュー内容の中から「病気について話すこと」を抽出し、病気を他者に「話している」「話していない(検討中を含む)」に分けて整理してみました。お答えくださった患者さん一人ひとりの家族関係や職場環境が違っているため、誰にどこまでを話すのか、話すのを控えるのかについて、お話しの内容も異なっていることをご理解ください。

なお、本インタビューの前に行った「ADPKDの患者さんを対象にしたアンケート調査」においても、「病気に関する情報の共有について」という項目で、病気のことについて家族(パートナー,子ども)や他者(職場の人,友人)に伝えることをどのようにお考えになり、実行されているかをまとめております。併せてご覧ください。

1.誰かに話している

<子供や家族に話している場合>

1)子どもや家族が自然に知っていた

専門家からのコメント 詳しく見る+
遺伝のことについて家族が知るきっかけは、必ずしも直接伝えることだけではありません。家族に同じようなご病気を抱えている人が複数いると、それに自然と気付いていることもあります。最近では、インターネットで簡単に情報が得られるので「のう胞」「腎臓」と調べればすぐに「常染色体優性多発性嚢胞腎」という言葉に行き当たり、遺伝のことについて知る、ということも起こります。逆にお子さんのほうが「何で親は自分の病気のことを話してくれないんだろう」と思っていたり、話した時に「なぜそのような大事なことをこれまで話してくれなかったのか」という反応をされたりすることもあります。

現在は、昔よりもはるかにたくさんの情報を、かんたんに得られるようになってきました。現在のように情報があふれている世の中だからこそ、直接話をすることの必要があるのかもしれません。ADPKDの症状は、人によって大きな差があります。どのようなことに困っているかも人によって違うでしょう。ひょっとしたら、お子さんや身近な人がインターネットの情報から得たADPKDのイメージは、実際にあなた(患者さん)の経験とはかけ離れているかもしれません。一般的なことだけでなく、「あなたが」どのようにADPKDについて考え、暮らしているかを近しい人と共有することは、あなたにとっても、近しい人にとって意味のあることではないでしょうか。

「病気のことについていつ話すか」は、遺伝性疾患を持つ患者さんにとって大きなテーマです。この語りにもあるように、「結婚、出産、職業選択、その他さまざまなライフイベントに影響を及ぼすぐらいなら、黙っておいたほうがよいのではないか、逆にだからこそ話しておかなければいけないのではないだろうか。ライフイベントはともかく、健康のためには話しておいた方がよいのではないか」等、様々な考え方があります。これらのどれが「正しいか」、という答えはありません。特に、多発性嚢胞腎の発症に明らかに有効とされる発症予防方法がない現在では、早くから知っておくことが必ずしも大きなメリットにつながるわけではありません。ただし、早くから検診をしっかり受けることで早期発見をして血圧や腎機能などの管理につなげられるというメリットはあります。
また、語りの中にもあるように、早いうちに話しておいた方が、お子さんは自然なこととして受け止めることができるため、オープンに話をすることがヨーロッパのガイドラインでは勧められています。しかし人それぞれの性格傾向があり、また多様な人間関係の中で生活していますから、やはり各人各様のやり方を見出すしかありません。大切なのは、お話をする場合/しない場合にどのようなメリット・デメリットがそれぞれあるかについて十分な情報をもとにじっくり考えて決めることです

事例C 詳しく見る+
[C:女性、40代]自分の親から伝えられ、子どもにも伝える

 Cさんは、30代後半(2010年代前半)に、高血圧の指摘を受け、それから2~3年後に診断を受けました。Cさんの母親が同じPKDでしたので、遺伝している可能性があることについては、小学生(1980年代末)の頃から知っていました。肺炎になり、内科医にレントゲンに映る「腎臓が少し大きい気がする」と言われたことがきっかけでした。その後、大学生のころ、自分もタンパク尿がでたり、母が腎機能が下がって低タンパク食を始めたりしたため、しだいに「なんとなく」「漠然と」理解していくことになりました。

[C]やはり母が、そういった病気があるっていうことは知っていましたので、遺伝しているかもれないっていうことは
[X]ずっと。
[C]聞いていたので、はい。
[X]それは、いつごろからずっとそういうふうに思っていらしたんですか。
[C]小学生のときに肺炎になりまして、そのときに、近くのその内科医の先生が、ちょっとこの子の腎臓が少し大きい気がするっていうふうな指摘を受けたそうなんです。で、そのときは、レントゲンにちょっと映るのは、小さな子供にしてはちょっと大きいんじゃないかっていう程度だったので。
[X]ふうーん。
[C]その可能性があるっていうのはずっと聞いてまして。で、大学生のころももう、タンパク尿が出てたので。
[X]ああ。
[C]まあ、かなり高い確率で遺伝しているなとは思っていたんですけど、ちょっと診断は受けないままに。

 Cさんは、子どもに伝える伝え方についても、母親が行ってきたことを踏襲しているようでした。Cさんには、中学生と小学生の子どもがいますが、二人とも、遺伝性の疾患であることは、知っているということです。下の子については、自分は関係ないと思っているとのことでしたが、上の子は、時々タンパク尿がでることがあり、気にかけているようです。その上で、自分が母を見ていたのと同じ立場にいるので、自分や母を見て、どうしていくか決めて欲しい、と語っていました。

[C]もう母がそうしてきたように、私の病気はこういう病気で、だからちょっとお水をたくさん今飲まないといけない理由とかも、子供たちは何となく横から見ているというか、私が小さいときと一緒ですよね。で、もしかしたら、自分たちに遺伝してる可能性は、あるっていうことも、伝えているので。

[C]そうですね。なのでやっぱり上の子が一番怪しいなと、私も思っているんですけど。でも、悩んでもしょうがないのでですね、なのでどうしたらいいかっていう、どうしたら病気と上手に付き合っていけるかっていうかですよ。そういうのを、私とか母を見ながら、自分がどうしていくかは決めてくれたらいいかなとは思っているので。

事例D 詳しく見る+
[D:女性、50代]あらためて伝え直す

 Dさんは、現在50代前半で、30代前半(1990年代後半)のとき、血圧が高く、精密検査でPKDであると告げられ、腎臓から来ていると説明されました。そこで「お母様と同じかも」と言われましたが、遺伝性の疾患と告げられたわけではなかったそうです。30代後半に、頭痛で病院に運ばれ、PKDであることに加え、遺伝性であることを知らされたということです。Dさんの母もPKDであり、家族には遺伝性であることもふくめ普通に話していて、Dさんの子どもも含め、全員知っていたということです。

[X]ほかのご家族の方にはどういうふうに、そのときは伝えられたんですかね。
[D]うーん、そういう話はたぶんみんながいる食事をするような場所でも普通に話はしていたので、家族は全員知っていましたね。
[X]あ、そうですか。
[D]ええ。普通にこうざっくばらんに食事中とか、だいたい居間に集まっているときでもそういう話をして、私のその高血圧の経緯もみんな知っていたので、あ、そういう病気なんだっていうことをみんな理解していました。

 その後、患者会に入って情報がわかるようになってきたこともあり、再婚した夫と相談して、あらためて子どもに、遺伝性疾患であることの意味を伝え直したということです。2分の1の確率で遺伝しているかもしれないこと、誰が悪いということでもないこと、すぐ検査しなければならないということでもないこと、クレアチニンの数字は気をつけて見ておくこと、などを伝えたということです。現在、子ども本人は、自覚症状もなく、クレアチニンも正常範囲にあります。

[D]私も患者会とかに入ってそういうのが、いろいろ情報がわかるようになってきたので夫にも話をして、去年ですかね、やっぱりちゃんと息子にも伝えておいた方がいいよねということを夫婦間で話し合って。
何か夫は遺伝子検査もした方がいいんじゃないのぐらいまで言っていたんですけど、まあ、そこまであんまり大げさにしちゃうと、何か息子がそういういずれ私みたいになっちゃうっていうのも大前提で話すのも嫌だなと言って、将来を悲観しちゃうのもかわいそうだからっていうことで。
でも、ならないとも限らないじゃないですか、2分の1なので。もしかしたらなるかもしれないっていうことだけ可能性としては言っておこう。
ただ、今すぐどうこうなる病気ではないので、でもちゃんと伝えた方がいいよねって、事実を事実としてっていうことで。2人で、ちょっと息子を外食に誘ったときに、実はって、遺伝性の病気というのはわかっているよねって、うん、これは2分の1の確率でもしかしたら、まあ、丁か半かじゃないけど出るかもしれないって、出ないかもしれない。でも、それはまだあなた自身の体を調べてないからわからないけれども、もしかしたら健康診断に引っ掛かったりのう胞がありますよって言われることもあるよって。
でも、それは本人も別に誰が悪いわけじゃないって、ばあばが悪いわけでもないというのもわかっているし、私が悪いわけじゃないっていうのもわかってくれているので、うん、それはわかっているって。だからって、別に今すぐ慌てて検査しろとかそういうことじゃないでしょうと言ってきたので。
ただ、そのクレアチニンっていう腎臓の数値があるので、そういうのを血液審査でだいたい健康診断をやると出てきますよね。
だから、それの数値だけは一応気を付けて見てて。どうせ引っ掛かれば絶対出てくると思うので、はいって出てくるからねって言って、うん、わかったっていう感じで、まあ、もうそこだけで軽く、そういう形で一応は伝えてはおきました。

事例E 詳しく見る+
[E:女性、40代]早い段階から話すことを選ぶ 

 [E]さんは、30代前半(2000年代前半)のとき、2人目の子どもを妊娠安定期に胎児死亡で亡くし、その後に行った検査でADPKDであると告げられたそうです。ただし、ADPKDについては、「母がそうだったので」「もしかしたらそうかもよ」ということは言われていたということでした。また、そのことは、夫にも、結婚前から伝えており、子どもを持つことについても、話し合いをしていた、ということでした。
 [E]さんは、子どもにも、かなり早い段階から、全部オープンに話していました。まず、自分の母親(祖母)のことを子どももみていたので、そのさいに自分のことも一緒に、「私も同じ病気ですから。私もああなりますよと」というふうに、話をしていたのだそうです。

[X]どんな風に日頃お話されたんですか?その状況の時。
[E]お母さんが、私の母ですよね、おばあちゃん、母ですよね。私も同じ病気ですから。私もああなりますよと。
[X]なりますよって。
[E]なりますよって。うふふふ。
[X]えっ、とかならないんですか?
[E]でも、もう小っちゃい頃からなんで。あんまり、

 このように、全部、子どもにオープンにすることは、かなり早い段階から、夫と相談をして決めたようでした。小さいころなら、「あるもの全部そのまま受け入れてくれる時期」だから一番早くに選択したということでした。

[E]そうすると、もうそれはかなり早い段階から主人と話をしてて。もうこの状況だから、全部子供にはオープンにしといた方が、もしそうだったとしても受け入れられやすいし。

 このように「自然に」説明することを続けてきたため、子どもは、ADPKDがどのような病気なのかについて、かなり理解しているということです。

[X]そうなんですね。わかりました。じゃあお子さんはこの多発性嚢胞腎っていう病気っていうのは、どういうものだっていうのはかなり理解されてらっしゃるんでしょうか。
[E]かなり理解してると思います。母の病状も逐一見ていて、腎臓が大きくなってきて肝臓もすごい腫れて、母はすごい大きくなって、透析が始まって臓器不全で最後亡くなったんですけれども、その過程を全部見てます。なぜそうなったかも全部説明していますし。

事例G 詳しく見る+
[G:女性、60代]自然に話しをしていて、その後職場の健診で見つかる

 [G]さんは、30代(1990年代)のときに、通勤途上に単車で転倒し、エコーをとったさいにPKDであることがわかりました。21歳のときに、父親を、胃潰瘍の手術のあとの尿毒症で亡くしていますが、その手術のさいに、父親がPKDであることを告げられていました。そのため遺伝にかんする知識があり、(4人きょうだいのなかで)「ああ私だったのか」と思ったということです。結婚前のことだったので、可能性はあると思っていたようですが、そうだという認識はなく、出産をしました。「申し訳なかったなっていう思いはあります」と語っていました。
 [G]さんが闘病されていたので、家庭内で自然に話が出ていて、子どもたちは遺伝することも知っていました。2人の子どものうち、下の子は、職場の健診で発見されて、その後専門の病院にかかり、「お母さんを恨まんようにってね」と言われたということです。[G]さんは、自分がまず治療に専念することで、息子に希望が与えられるとの考えのもと、病気に前向きに取り組んでいるそうです。

[G]どんなっていうほどでもなくて、子どもも職場の健診で受けて発見されて。ちょっと遠方の方にいるんですけど、そちらで専門の病院にかかったみたいなんですけど。でまあまあ、「お母さんを恨まんようにね」って言われたとか言ってましたけど。
[X]うふふふ。
[G]ええ、でまあ私としては、話はそんなんで普通に「ああ、そうか」くらいだったんですけども、私としては私がしっかり、あの勉強してこの病気と闘って治療に専念したりすることで、子どもに希望が与えられるんじゃないかと思ってですね。前向きに自分に、私がまずこの病気に前向きに取り組まなきゃいけないなと思って。という気持ちではおります。

2)自分が診断された時点で子どもと家族に話した

事例A 詳しく見る+
[A:女性、70代]すぐに伝えて、子どもも診てもらう。

 Aさんは、現在70代前半で、40代後半(1990年代後半)のとき、職場の健康診断でPKDと告げられました。その当時、2人の子どもは20歳を過ぎたくらいのころでした。Aさんは、あまり「ショックでもなかった」ということで、将来透析になる可能性と、父親からの遺伝であることを含め、ご家族にもすぐに伝えていました。しばらくして、2人の子どもについても、20歳を過ぎていたこともあり、知っていた方が対処できて良いだろうと考えて、検査を受けることにしました。その結果、下の子に嚢胞があることがわかったということです。

[X]すぐにその話ってご家族にされたという。
[A]そうですね、はい。家族にも話しました。
[X]そのときはどんなふうにお話しされたんですか、ご家族の方に。
[A]うーん、将来透析になる病気らしいよっていうので、お父さんからの遺伝らしいというぐらいで、あんまりそのショックでもなかったんですよね。透析で生きられるならいいんじゃないかなっていうような感覚でした。
[X]お話しされた順番というか、まずはご主人からですか。
[A]そうですね。で、しばらくして、T先生のところで子どもたち2人、もう20歳過ぎてましたので、連れてこいっていうことで。
[X]なるほど。先生の方からそう言われたんですね。
[A]たぶん言われて。私が言ったのかどうかはわからないんですけど息子も診てもらいたいっていうことで、とにかく2人連れていって、調べてもらいました。わかってた方が自分でも対処できるだろうし、知っている方がいいだろうと思って。で、その結果上の子はなしだったんですけど、下の子が嚢胞があるっていうことがわかりました。

 下の子は、治験の第2相から10年以上、トルバプタンを使用し続けており、とくに症状がでることもなく、腎臓も「あんまり大きくはなってない」ということです。副作用も少なく、職場でもいつでも水が飲めるような状態で、生活にも特に問題はない状態にあるようです。なお、Aさんは、子どもには、「私ぐらいには生きられる」と伝えていた、と語っていました。

[A]成人病みたいなものである程度の時期になったら出る可能性があるし、知っていた方がその自分の心構えっていうか、あの、体をいとうということもできるかもしれないので、それに少なくとも私くらいの生き方はできるよということは言ったと思います。
[X]ああ、なるほど、なるほど。
[A]私は50歳ぐらいまでまた仕事も一生懸命やっていました、何ていうかな、自分の生き方にすごくそれなりに満足しているというか、だからこのくらいには生きられるっていう、だから悲観することはないんじゃないか、これから科学も医学も発展するから、もうちょっといい方向にいけると思うというようなことは言ったと思います。

事例B 詳しく見る+
[B:女性、70代]すぐに伝えて、子どもも検査を受ける 

 Bさんは、現在70代前半で、40代後半(1990年代前半)のとき、血尿と腰痛のために近くの病院のエコー検査を受け、嚢胞腎と診断されました。その当時、三人の子どもは、18から24歳くらいでした。Bさんは、嚢胞腎の診断を受けたことを、夫にも子どもにもすぐ伝えたそうです。夫は「まったく無関心」だったそうで、Bさんは、無関心であることを、楽だと考えているとのことでした。子どもたちに対しては、「遺伝性の病気なのですぐ調べてほしい」と伝えたということです。

[X]そのとき、お子さん方にはどのくらいお話されたんですか。
[B]すぐに言ったと思うんですけど、ほんとは今にしてはちょっと配慮が足りなかったなと思うんだけど、こういう病気と言われたから、遺伝性の病気なのですぐ調べてほしいと伝えました。最後に。
 
 3人の子どもたちの反応は、「わかった、わかった、じゃあ、行ってくるっていう感じ」たったということです。一番上の子は、その時点で、専門医にPKDの診断を受けましたが、現在まで、それほど大きな症状はないようです。一番下の子は、当時まだ18歳だったこともあり、そのときは検査を受けず、結婚する前に検査を受け遺伝していなかったということです。真ん中の子については、当時、普通の病院で診察を受けていたので、心配していたが、あらためて自分で検査を受け直したそうで、[B]さんは、それを受けて、子どもについて「意外とたくましいんじゃないかな」と語っていました。

[B]それで、真ん中の子はね、普通の病院で診察受けたものですから、今年8月に来たときに、もう一度調べてもらってと言ったらば、去年調べたよって。何でもなかったそうですけども。だから、子どもって意外としっかりしてる。親よりしっかりしてるんじゃないのかなと。だから、皆さん、子どもさんのことすごく心配なさってるけど、意外とたくましいんじゃないかなと。

3)子どもが成人してから病気と検査のことを話した

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この病気は、多くの場合、成人になってから発症し進行もゆっくりのため、放っておいて大丈夫とか、検査は成人してからでよいと医師から言われたという話を、最近ではなくなりましたが、以前は患者さん方からよく聞きました。実際早く診断したからと言って症状がなければ健康管理上の大きなメリットはなく、かえって心理的に負担感をもつことの方が問題になります。病気について子供に話せていない、あるいは話すことに躊躇感があるときは無理をせず、成人期になるまで検査は待ってもよいでしょう。その代りに、学校での定期健康診断の結果や日頃の体調には関心の目を向けて見守ってあげて欲しいと思います。
まれに小中学生の子どもであっても発症している場合があります。背中や脇腹が痛いとか血尿が出たなどの症状があれば、発症の可能性がありますので、すぐに受診をすべきです。

遺伝性の病気のことについて「いつ」話せばよいかを考えるときの判断材料として、それを子供のころに話すことで予防できたり、早期に治療ができたりするかどうかがあります。今のところ、子供のころからとりくめる積極的な予防法・治療法があるわけではありません。そのことだけを考えれば、早くから病気について話すことで不安を与えてしまうのであれば、大人になってから話す、ということを選ぶのはごく自然です。一方、「1)子どもや家族が自然に知っていた」のところでお話しされていたように、はやいうちから話をしておくことによって、それを自然なこととして受け入れることができるというメリットもあります。また、病気について家族がしっかり理解していることで、あなたにとって心強いサポーターになってくれるかもしれません。
話した相手がそれをどのように受け止めるかには、「いつ話すか」に加えて「どのように話すか」も大きく影響します。自然なことのように話せば、聞いた方も自然なこととして受け止めるかもしれませんし、悪いこととして話せば、悪いこととして受け止めるほうに傾くでしょう(もちろん、腎臓の病気であることは間違いないので、過度に楽観的に話しすぎるのは禁物です)。どのように話せばよいのか、受け止める側によって様々ですので、一概にこれ、とは言えず、多くの患者さんが悩みをお持ちです。そのような時こそ、遺伝の専門家(遺伝専門医・認定遺伝カウンセラー・遺伝看護専門看護師)を活用してください。遺伝の専門家による遺伝カウンセリングは、あなたが病気についていつ・どのように話すのがよいかを考えるのをしっかりサポートします。

**遺伝カウンセリング**

遺伝カウンセリングでは、遺伝を専門とする認定遺伝カウンセラーや医師に、遺伝性の病気にかかわる悩み(遺伝性の病気とどのように付き合っていけばよいのか?家族で病気のことについていつどのように話せばよいのか?など)について相談できます。遺伝カウンセリングは、大学病院・総合病院を中心に全国の大きな病院で受けることができます(※)。遺伝カウンセリングを受けたいと思ったら、まずは主治医に希望を伝えるとよいでしょう。
(※)現在は保険適応外。施設によって異なりますが初診の費用はおおよそ1万円前後です。

事例F 詳しく見る+
[F:女性、60代]「そろそろ大人になったころ」伝える

 [F]さんは、母親がADPKDを発症しており、「遺伝している可能性が大きい」ということを聞いていたため、30代後半(1990年代前半)に、人間ドッグを受診し、診断されました。診断されたあと、2人の息子には、比較的早い段階で、「そろそろ大人になった大学生のころ」に、「遺伝する可能性もあるので」ということを、伝えていたのだそうです。

[X][F]さんの場合はどんなふうにお子さん、子どもさん方にお伝えになったんでしょうか。
[F]普通に、普通にそのままを伝えて、遺伝する可能性もあるのでということは、もう私がわかった時点では、ちょっと早かったかな、もうちょっとしてからかな、そろそろ大人になった大学生のころに伝えていました。
[X]そうですか。そうすると、比較的早い段階で。
[F]早い段階では伝えていたんですけども、わざわざ検査することもないかなというので、社会人になってから、機会があるごとに早く検査したらとは言っていたんですけど。
[X]なるほど。タイミングを見計らってという。
[F]見計らってというか、はい。

 そのさい、子どもたちは、「わざわざ検査することもない」と考えていたということです。そののち、下の子は、「会社の健診で血圧が高い」ために再健診になったさい、30代後半にADPKDの診断を受けることになりました。現在、トルバプタンを使用するかどうか悩まれているそうです。上の子は、検診にひっかかっていないために、検査も受けていないとのことです。

<病気を話したことによる子どもと配偶者の対応>

1)対する子どもの受けとめ

2)配偶者に話して支援してもらっている

<職場>

1)仕事に支障がないように職場に言ってある

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健康管理上から言えば、できるだけご自分の健康状態を周囲の人に知ってもらって無理のない働き方や活動をするというのがよいに越したことはありません。しかし、働き盛りの方にとっては仕事上の役割を果たせないことの辛さから、自身の健康状態をオープンにできずに無理をしてしまう傾向があります。人それぞれの考え方、職場や周囲の人たちとの関係性など様々な条件の中で、個人の生活の質(QOL)を第一に考えることも大切なことです。健康状態を悪化させるリスクを最小に抑えるために、主治医とも相談しながら落としどころを見極めることが重要と思います。

職場で病気のことについて話すかどうかは、時に家族に話すかどうかよりも悩みが深いことがあります。話をすることによって、仕事上の不利益をこうむったりすることがないとは言えず、それが原因で話すことを躊躇してしまうことがあります。一方で、話さないことによって受診のために仕事を休みにくい、付き合いを断りにくい、といった悩みを持っていらっしゃる方も多くいらっしゃいます。理想は、病気と共に生活していたとしても、その人なりの働き方が尊重されることで、そのような社会を目指さなければいけないことは確かですが、残念ながらまだまだそこに至っていない現実があることは、私たち専門家も身をつまされる思いです。患者さんの健康を守る立場からすれば、職場には、病気のことについて理解し、受診や業務内容等について十分な配慮をしてほしいところです。多発性嚢胞腎を含む遺伝性疾患の多くは、進行性のため徐々に体に与える負担が大きくなってくることがあります。長く仕事を続けていくためにも、あなたや職場の人双方にとって、働きやすい環境について相談できるとよいでしょう。もちろん、過度に自分の役割をセーブする必要はありません。自分のからだの状況とのバランスを考えながら、できるだけ活動的であっていただきたいと思います。もしいまの自分のからだの状況や、どれぐらいの仕事量が自分にあっているのか(最低限どのようなことは避けた方が良いか)がわからなければ、まずは主治医に聞いてみるのが良いでしょう

2.子ども/家族/職場/友人にまだ話していない

事例H 詳しく見る+
[H:女性、40代]「成人するぐらい」を待つ

 [H]さんは、現在40代後半で、20代前半(1990年年代前半)に、硬膜下血腫のさいに診断を受けました。[H]さんは、最近、中学生になった子どもに、自分の病気のことを伝える機会があったそうです。

[H]PKDか何かの冊子か何かだったかな。それを見て自分もなるの? って言われて。でもきっと、こういうお話じゃないですけど、ゆくゆくはそれで自分も、悩むじゃないですけど、言うタイミングはどうなのかっていうよりも、調べるタイミングはどうなのかっていうのもあるし、何かこう、ある程度高校生とか20歳近くないと意味ないよ的な話も、何かね。患者会の先生でしたっけ。何かそういう話も、中では出てきてましたよね、会の中で。いつそれは調べるべきなのかとか、教えるべきだとかっていう話もありましたけど、それを考えると、どのタイミングなのか。

 中学生になった子どもは、PKDの画像をみることによって、親の病気について理解するとともに、「自分もなるの?」という質問からもわかるように、遺伝の可能性についても理解をしはじめています。[H]さんは、「調べるタイミング」について、「ある程度高校生とか20歳近くないと意味ないよ」と、伝えているとのことです。また、そのときの息子の印象としては、「ええっ」という驚きがあっただろうと話していました。
 なお、病気のこと自体は、腎臓が悪いから、きょうだいは産んであげられない、という形で、4~5歳のころから伝えていたそうです。また、患者会の会場までは一緒に行くということもしていたそうです。
 患者会などの場で専門的な話を聞きながら伝えるチャンスがあったかもしれないので「もったいなかったかな」と思いつつも、「詳しく知るタイミングっていうのもあるかもしれない」という問いかけに、「時期」の問題があり、今は反抗期なので難しい、と答えていました。「皆さん」「言ってましたもんね」と、「成人するぐらい」を「1つの区切りというか節目というか」と推し量っているようです。

[H]きっと専門の方のお話を聞きながらっていうのは、一番きちんとした情報ですもんね。だから、きっとそういうチャンスにするべきだったんだなっていうのはありながら、ちょっともったいなかったなっていうのはありましたけど、うん。
[X]まあ、詳しく知るタイミングっていうのもあるかもしれない。
[H]そこだ。それによってちょっとね、こっち弱くてやられちゃうじゃないですけど、こうなっちゃってもかわいそうっていうか、子どもに対して少し気使わなきゃなんない部分なのかなっていうのもあるので、時期、まあ、今反抗期なのでね、何言ってもちょっとどうなのっていうのはありますけど。
[X]順調な発達ですね。反抗期。
[H]そうね、本当。なのでちょっとどうなのかなっていうのもありながら。
[X]皆さん二十歳ぐらい、成人するぐらいを、というお話も多いですからね。
[H]ですよね。言ってましたもんね。そうなので、そこが1つの区切りというか節目というかそういう感じなのかもしんないですけど。

事例I 詳しく見る+
[I:女性、50代]タイミングを考える

 [I]さんは、現在50代後半、数年前に人間ドックでエコーを撮り、そこで嚢胞があることを知りました。母親をはじめ親族にPKDの発症者がいたため、嚢胞があるということからPKDであると理解することができました。「覚悟を決めて」検査にのぞんだ[I]さんは、嚢胞が見つかったことをすぐに夫に話したそうです。
 [I]さんは、最初のインタビューの時点は、まだ、20代の子ども2人には病気のことを話していませんでした。前年に、嚢胞感染で入院したため、「仕事先にはもう言わないと」と考え、その上で、子どもにも伝える「タイミングを今、考えています」と語っていました。会社にまだ言っていない理由について、[I]さんは、「自分だけの病気」ではないからだ、と説明していました。「本人たちにどう言ったらいいか悩んでいるのに、周りが先に知ってしまうのはだめ」だということなのです。
 また、ここで、「タイミング」と言われているのは、子どもの生活にかかわるものでした。20代の上の子の仕事に影響がでないように考えていたらのびてしまったということのようです。
 9ヶ月後のインタビューのさいには、[I]さんは、会社にも、そして上の子どもにも伝えたあとでした。「タイミングを見計らって」夫と3人で話すことができ、冷静に理解してくれたということでした。

[I]それで、上の子には言いました。先月にやっと言いました。いろいろなタイミングを見計らって、先月に言えそうだなと思って、上の息子だけと夫と3人で話して言いました。すごく心配だったんですね。どういうふうに話したら、何ていうんですか、冷静に聞いてもらえるか。どんな反応なのか冷静にそうなんだって思ってくれるのか、何か取り乱すようなことが、わからないですけど、可能性としてあるのかなとか、少し心配だったんですけど。だからこう、言う、話していく順序立てとか、すごく自分の中で準備して話して、話しましたけど、すごく冷静に聞いてくれまして、全然思っていたような心配はなく、理解してくれました。

 上の子どもに話したあとは、冷静に理解してくれたということで、特にかわったこともないということでした。子どもは、検査を受けるのは先にすると言っていたので、保険のこともあるので、「相談してから調べようね」と伝えたそうです。子どもは、冷静に受け止めてくれましたが、[I]さんに、安堵感はなかったそうで、「意外でした」と語っていました。現在学生の下の子は卒業すると家を出て行く可能性があるので、その前に「フォローできる状態で話すべき」と考えているそうです。

事例J 詳しく見る+
[J:女性、50代]はっきりとは言ってない

 [J]さんは、現在50代前半、30代前半(1990年代後半)肝嚢胞の治療を始め、その1年後、腎臓の嚢胞からの合併症だということを知ることになりました。[J]さんは、家族に、PKDを発症している方が誰もいない、ということで、「突然変異」だと説明していました。そのため、遺伝性のことだとは考えてなかったそうです。

[X][J]さんのご家族にはそういう方いらっしゃらないんですか?
[J]いないんですよ。透析してる人間も誰一人身内にもいないですし。

[J]だからまあ突然変異って言うんですかね。
[X]ねえ。でもなおさらのこと、遺伝性のものだなんてことは思わないですよね?
[J]もう全然。はい。思わなくって。

 [J]さんには、20代の2人の子どもがいます。子どもたちに、遺伝性疾患であることを、はっきりと言ったわけではないようですが、それとなくは気づいているということです。

[X]お話にはなられたんですか?
[J]はっきりとは言ってないんですけど、それとなくは気づいてるっていうか。まあ下の子どもはちょっと医療系の大学に行ってるもんですから。
[X]あ、そうですか。
[J]それでやっぱり習ってきて。「これってお母さんの病気だよね?」って言われて。「あ、うん」って。「これって遺伝するの?」って言われて、その時にちょっと、ちらっと。「実はね」って話は軽くはしたんですけど。

 [J]さんは、「え、じゃあ私にも遺伝してる可能性あるのかなあ?」と尋ねる子どもに対して、「必ずしも遺伝するとは限らない」「なってたとしても、親とはまったく違う症状で一生終わる人もいるから。そんなに心配しないで」と説明したそうです。自分の姿を見てきているので、それが自分にも、というふうに考えてほしくない、ということなのです。
 [J]さんは、子どもたちに遺伝しているかもしれないという思いについて、「一人で解決するしかない」と話していました。その背景には、自分の親や子どもにも話せない、ということに加えて、同じ患者と話すということにも、「みんなそれぞれ症状が違うので、わかり合うにも限界がある」という理解がありました。一方で、そうしたかかわりは、「みんなそれぞれ症状が違う」なかで、「心の励み」になるとも語っていました。

<子ども>

1)子どもに話すタイミングを計っている

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病気のことについては、ただでさえ人には話しづらく、まして遺伝のことは人には話せない、といった思いは、多くの方がもっています。特に、多発性嚢胞腎は、めずらしい病気(とはいっても、実は遺伝性の病気の中ではかなり患者さんの数は多い病気です)なので、話したとしてもなかなか理解してもらえないし、ほかに相談できる人や仲間がいない、といった孤独感を持つこともあるでしょう。誰か詳しい人に相談したいと思っても、治療以外のこと(遺伝や家族との関係等)については誰に聞けばいいかわからない、そもそもそのようなことに詳しい人がいない、といったことも、かつてはありました。
 また、この病気になったのは決して本人のせいではないのですが、子どもや孫が同じ病になったとしたら自分のせいだと責めてしまったり、怖くて話せない気持ちになったりすることがあるようです。そんな時は、一人で抱え込まないで助けを求めて欲しいと思います。例えば気の置けない友人や同じような病を持つ人と話してみる、あるいは医師や看護師、心理カウンセラーなどに相談してみるのもよいでしょう。遺伝問題について支援が必要であれば遺伝専門職(遺伝専門医・認定遺伝カウンセラー・遺伝看護専門看護師)に直接又は今かかっている医師から紹介してもらうことも可能です。きっと皆さん支援してくれるでしょう。現代社会では「受援力」をもつことは、より豊かに生き抜くために大事です。

おわりに

誰かに病気について話すことを、それによる良いことを前向きにとらえたり、話すことこそ自然なこととらえたりして、実際にお話をされた経験を語ってくださったかた。話すことによってなにか良くないことがあるかもしれないとためらわれているかた。様々なご経験を語っていただきました。病気について誰かに話すかどうかには「どちらがよい」という明確な答えがないだけに、悩みがうまれます。そして、その人なりの答えを出すためには、病気そのものの情報や、話すことによってどのような影響があるかについての情報を十分に持ったうえで考えることが大切です。ここで紹介した多くの患者さんの語りは、皆さんが、病気について話すこと自体をお考えの際に、何らかの手がかりにしていただけることを期待して作成しました、どうぞ、ご活用ください。